50代が振り返る、退職の日に残った“ぽっかり空いた穴”の正体

キャリア・働き方

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ニュースで「退職代行サービス」が話題になっていました。
利用する若者が増えていると聞き、50代の私は正直驚きました。
「辞めます」と自分の口で言えない、あるいは言わせてもらえない。
そんな職場が、いまは少なくないのかもしれません。

けれど同時に、そんなふうに思えるのは、私自身のこれまでの仕事人生が、それなりに恵まれていたからなのだろう、とも感じました。
そう考えたとき、ふと自分の退職の日のことを思い出したのです。

あの日、胸に残った少し不思議な感情。
今回は、その記憶について振り返ってみたいと思います。

逃げるように辞めて知った「円満退職」の難しさ

私はこれまで、正社員、非常勤、パートとさまざまな形で働いてきましたが、一度だけ、逃げるように職場を去ったことがあります。

その職場では、上司によるパワハラが半ば常態化していました。
当初は尊敬していたその上司が、裏では私のことも含め、心ない言葉を口にしていたと知ったとき、私の中で何かが「ぷつん」と音を立てて切れました。

それ以降、仕事に向かう気力が急速に失われ、体調も崩しがちに。
出勤することさえ重く感じるようになり、やがてそのまま退職することになりました。

一般的に「円満退社」とは、退職者と会社側の双方が納得し、わだかまりを残さずに労働契約を終えることを指します。
けれども、職場に根深い問題がある場合、そのハードルは高くなる
私は身をもって知ることになったのです。

「〇〇会社の私」が、「ただの私」になるとき

一方で、約16年勤めた会社を去る日は、拍子抜けするほどあっさりと過ぎていきました。
本当に終わるのだと実感したのは、仲の良かった同僚が「お疲れ様」と涙ぐんでくれたときです。

挨拶をして職場を出た瞬間、急に足元がふわりと浮くような、不思議な感覚に包まれました。
これまで当たり前のように背負っていた「〇〇会社の私」という肩書きが外れ、明日からは「ただの私」になる。

職場で深く関わってきた人たち。
取引先との顔なじみならではのやり取り。
自分が社会の一部として機能しているという確かな実感。

それらが一度に手のひらからこぼれ落ちてしまうようで、胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感と、言いようのない不安が押し寄せました。

定年退職を迎えた男性たちは、こんな感覚を味わうのだろうか。
そんなことを、ぼんやりと考えていました。

自ら望んだ退職なのに、なぜ寂しいのか

次のステップへ進もうとしているはずなのに、なぜこれほどまでに心が揺らぐのでしょうか。
それは、職場が単なる労働の場を超え、「自分のアイデンティティ(自己同一性)」の拠り所になっていたからだと思うのです。

私にとって職場は、「働く場所」以上の意味を持っていました。

  • 社会との接点:世の中とつながっているという確かな安心感
  • 人とのつながりの拠点:仕事の枠を超えて笑い合える仲間の存在
  • 自分が必要とされる実感:役割を与えられることで存在意義を確かめられる場

「〇〇会社で働いている」という肩書きは、自分を説明するうえで最も分かりやすく、社会における自分の立ち位置を示す道標のようなものでもあります。

退職とは、その大切なアイデンティティの一部を手放すことにほかなりません。
在籍期間が長いほど、そして職場への思い入れが強いほど、心にぽっかりと穴が空いてしまうのは、むしろそれだけ真剣に向き合ってきた証。
誰にでも起こり得る、ごく自然な心の揺れなのだと思います。

「ぽっかり空いた穴」の正体は何だったのか

「仕事しか自分を語る材料がないなんて、つまらない人間だろうか」と自問したこともあります。
けれど、今はこう思うのです。

退職時に「あぁ、せいせいした!」とスッキリするだけでなく、「寂しい」と感じられたということは、それだけその場所での時間が自分にとって意味のあるものだったということ。
職場環境や人間関係、そして仕事内容にも、おおむね満足し、愛着を抱いていた証なのかもしれません。

退職は、単なるキャリアの「終わり」ではありません。
自分をどう定義するかを静かに問い直す、「再定義」の時間なのだと思います。

肩書きがなくなったとしても、あなた自身が消えてしまうわけではありません。
あの日、私の心に「ぽっかり空いた穴」の正体は、決して失敗でも後悔でもなく、自分が社会と真剣に関わってきたという、ひとつの確かな証だったのではないか―。
今は、そんなふうに受け止めています。

皆さんは、職場を去るとき、どんな感情を抱きましたか?
もし今、心に穴が空いたような寂しさを感じている方がいたら、それはあなたがそれだけ頑張ってきた証なのだと、自分を労ってあげてほしいなと思います。

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